ホルスフィールドリクガメ繁殖レポート

まえがき

当方がホルスフィールドリクガメの繁殖を目指すに至ったことには理由があります。

ホルスは一般的に「入門種」と位置付けられていますが、はっきり申し上げてこの定義は誤りです。確かに中央アジアやヨーロッパのリクガメは日本の気候環境に適応しやすいですし、亜種の同定が難しく棲息環境による差異の大きいギリシャリクガメに比べればホルスは難が少ないかもしれません。しかしながら、同じヨーロッパのリクガメでも主にCB(飼育下繁殖)個体が流通している種(ヘルマンリクガメ等)に比べれば、WC(野生採集)個体が主であるホルスの飼育が簡単なはずはありません。安価であるが故に状態の悪い個体も多く流通しており、また衝動買いの対象になることも少なくなく、ホルスを「入門種」とすることは「気軽に買えて死んでも経済的損失が少ない種」と言うに等しい乱暴な位置付けだと思います。

安価であるが故に商業繁殖は望むべくもありません。ならば自分に出来る範囲で成すべきことは「一頭でも多くのCB個体を世に送り出すこと」だと考えたのです。CB個体が世に出ればその分野生個体の保護に繋がり、飼育環境に適応しやすい国産CB個体を世に送り出せばその分不幸な死を迎える個体を減らせる。本当の意味で入門種と呼べるホルスを世に送り出そう・・・そんな思いから繁殖を目指すことを決意したのです。

このたび繁殖に成功し目標にひとつの結実を見られたことはとても喜ばしいことです。が、この事業には終わりはありません。今後も健康な国産CB個体を一頭でも多く世に送り出せればと願っています。そして国内で飼われている多くのホルスに子孫を残す機会が与えられることを願いつつ、ここに当レポートを公開する次第です。

当方は基本的に冬眠無し通年保温飼育です。5月半ば~10月半ばの約5ヶ月間は完全ベランダ放牧しています。

メスは飼育6年半で推定7歳。165mm/950g前後でやや甲高なフォルム。性格は人懐っこいと言うか人を見るとエサを求めて大きく口を開けたまま猛然と寄って来る(それで子供を泣かせた前科有り)。でもって人の指をかじる。ベランダ放牧時は人の履いてるサンダルを噛むのがお気に入り。

オスは125mm/550g前後。数字の上では平均体重よりかなり重いんですが特に太っているわけではありません。身が良く詰まってる感じかな・・・お迎え当時から平均体重の2割増しでした。この個体は2年ほど前に尻尾が立派なオス確定状態でゲット。当時は甲長115mmと小柄でしたが、甲羅は褐色が濃く成長線の年輪は細かくまた全体的に磨耗しており、冬眠を繰り返してゆっくり成長した10歳を超えている個体と思われます。交尾行動はそれほど多くなくメスと同居させても心配のない良い個体です。

両者の同居を開始してひと月ほど後にはオスの交尾行動が見られました。交尾行動は年中見られますが特に春と秋に多く見られます(が、この2年間で交尾の成功を目撃したことはありません)。オスは普段はメスよりのっそりしていますが交尾を迫る時だけはトカゲのように素早い。

※ 上記は2004年12月に初めて受精卵を産んだ頃の状態です。

交尾

交尾はメスの受け入れ準備が整わない限り行われず、オスは匂いを嗅ぐことでそれを知るそうです。

交尾の際の求愛行動は種によって異なります。ホルスの場合はまずメスと向き合う形で首を上下に振ります。その後メスの顔に向かって噛みつこうとします(写真上)。メスは当然頭を引っ込めます。すると今度は近い方の前足に噛みつきます。メスは噛みつかれた方の前足を引っ込めてブロックの形を取り、もう一方の前足で回転するように逃げます。オスは回転するメスをひたすら追いかけては噛みつき、普段の姿からは考えられないスピードでメスを中心に回り続けます。

やがてメスは逃げるのを諦めてがっちり防御に入り、オスはその隙にすばやく背後に回り交尾を仕掛けます。交尾の際にオスは口を大きく開けて何度も「キュッ」と声を出します。このときにメスが逃げるとまた前述の噛みつきに移ります。

以上のように激しい行為が行われるため、頻繁に交尾行動を繰り返すオスと常に同居させるのは危険な場合があります。実際ウチでは若いペアのメスの食が細くなったことがあります(別居させてすぐに回復しましたが)。が、繁殖を目指す以上は少なからず同居は避けられません。この辺の判断は難しいところですが、リクガメは一度交尾すれば数年に渡り貯精することもあるらしく(隔離されたメスが数年に渡り受精卵を生み続けた例があります)、産卵の直前のタイミングに合わせて交尾させる必要は無いので、常時同居させなくとも繁殖は可能です。長い目で見てメスの状態が良いときに短期間の同居を行う程度が良いのかもしれません。もしくは広いスペースで遭遇の確率を下げて同居させるのが良いでしょう。畳1枚程度のスペースがあれば常時同居させてもあまり問題にならない感じです。またオス1頭に対してメスを2頭以上あてがうことでメスの負担を分散するのも効果的です。

産卵の兆候

最初に目に付いた兆候は深夜徘徊でした。23時~2時頃に突然シェルターから出てきて徘徊するようになります。徘徊は少し動いたり止まったり眠ったりを数時間に渡り繰り返すような感じで、その行動は数日に渡り連続して見られました。なおこの時点では昼間は特に変化は見受けられませんでした。

深夜徘徊が4、5日ほど連続して見られた後、昼間にホットスポット付近など十分に温度が上がっている場所を後ろ足で掘る行動が見られます。これは普段は絶対に見られない挙動なのですぐにわかります。いつもはホットスポットでケツを向けて寝てるのがこちらを向いてモゾモゾしてる姿は妙に可愛いらしいです。そこで産んでしまうことが無いようにホットスポット付近の床材は浅めにしておいた方が良いでしょう。

この状態でさらに放置すると、深夜徘徊時にシェルターで寝ているオスに向かって甲羅アタックを繰り返したり、仕舞いには壁に向かって甲羅アタックを繰り出しました。昼間もウロウロと歩き回ったり壁に前足を掛けて立ち上がることが多くなり、かなり落ち着かない感じが見受けられます。

なお産卵前は食欲が減退すると聞いていましたが、ウチでは産んだ2頭ともその兆候は全く見受けられませんでした。むしろ爆食傾向と言って良く、産卵前日までたくさん食べた挙句に産卵床のピートモスまで食ってました(笑)。ただケージ内での穴掘りが見られた日に限ってはほとんど食べていなかったので、実際のところは産卵の兆候に気付かず放置する(または環境が悪く思うように産卵場所を決められない)ことで「結果的に食べない日が続く」のが食欲不振の定説の真相のような気がします。

※ 産卵前の挙動は個体によって異なるようですが、普段からしっかり観察していれば挙動の変化はわかると思います。当方の別の個体では深夜にシェルターから顔を出して普段とは逆向きの姿勢で眠っていたり、昼間にシェルター・ホットスポットから離れた場所でぼ~っと佇んでいるくらいの変化しか表れませんでしたが、それでも普段は見られない行動だったので抱卵であると判断することが出来ました。

2005年以降は人工芝の掘れない環境に移行しています。当初は産卵の兆候がわかりにくくなるのではないかとも思いましたが、この場合は産卵場所を探すためにケージから出たがる挙動が見られます(餌を求めるのとは異なり明らかに上に登ろうとする挙動が見られます)。また産卵の2週前頃から産卵期の間に頻繁に塩土をかじるようになります(カルシウムやミネラルを欲しているものと思われます)。夜中でも急に起き出してかじります。かじりすぎてくちばしの先端が完全に閉じなくなるほどかじります。これらの行動には個体差がありますが、普段からの観察を怠らなければ異常行動は如実にわかるはずです。

産卵床

あくまで上記サイズのメスの例ですので悪しからず。

ちょっと狭いかなと思いつつも450×300×深さ300mmの衣装ケースを用意(近所に開店したホームセンターの開店セール品(^^;)。土はピートモス18リットルに川砂6リットルを混ぜました。予め十分に湿らせて軽く押し潰すと土の深さが甲長とほぼ同じ170mmほど(結果的にはこの広さと深さで特に問題は感じられませんでした)。余った高さはカメがケースの縁に前足をかけてなんとか立ち上がれる程度です。

※ 土は上記に限ることはありませんが、ピートモスは良く水を含むので差し水の必要が少なく便利です。ただこれだけでは軽いので川砂を2~3割ほど混ぜるととても良い感じになります。川砂はいわゆる公園の砂場の砂で、水を含むと重く固まりやすくなり、それでいて掘るのに難がありません。子供の頃に砂場で山を作ってトンネルを掘ったことってありますよね。あのような感じでとても穴が掘りやすくなります。

掘り始めるまでの脱出防止及び目隠しとして高さ60cmほどの段ボールで簡単に囲い(撮影時には外しました)、土を温めるために50℃ほどのお湯を1リットル注し、スポットを中央に照射して準備完了。冬場だったので室温も高めにしました。

ケージ内のホットスポットを後足で掘る仕草を見て確信し産卵床へ。最初は歩き回ったりケースの縁に立ち上がったりでホントにコイツ生むのか?と半信半疑でした。産卵床で眠ってしまったらケージに戻す・・・の繰り返しを2日間で3回ほど。4回目には自分が暇だったこともあり産卵床で眠らせたまま放置(自分も2時間ほど眠ってしまい起きたときは慌てました(^^;)。すると8時間後に起き出してさらに2時間後に後足で掘り出しました。

その後何度か経験してわかったことは、当個体の産気付いたときのケージ内での挙動は深夜は徘徊のみで穴は掘らず、その時点で産卵床に移しても思うように産んでくれません。そのうちに昼間にホットスポットでの穴掘り行動が見られ、その時点で産卵床に移して産ませるパターンが定着しました。が、昼に穴掘りが見られた時点で産卵床に移しても夜遅くにならないと作業を始めないことが多いんです。深夜徘徊時に産卵床に移しても産まなかったくせに・・・わけわかんない(^^;
※ その後クラッチを重ねるごとに産卵床に移してから作業を始めるまでの時間は短くなり、7ヵ月半後の2シーズン目には産卵床に移して数分後に作業を始めました。産卵床にも慣れがあるのかもしれません。

※ もう少し産卵を観察しやすいようにしようと思い、2007年から衣装ケースを45cm水槽に変更したところ、産卵床に移してから作業を始めるまでの時間が非常に長くなりました(^^; やはり慣れないとなかなか場所が決まらないのだと思います。ガラス水槽を使った感想としては、すべりが良いのでカメが立ち上がりにくくなったことが挙げられます。

産卵

産卵する場所を選ぶ際にしきりに土の匂いを嗅ぎます。土が乾いていると鼻息で土が飛ばされるのが見て取れます。

作業はまず後足を突っ張ってお尻を高く上げながら頭から突っ込むように前足で掘リ始めます。通常土に潜るのとは異なり、写真のように首をやや上に向けて掘るようです。

※ 産卵床の角を前足で掘って斜面を作り、反転して斜面に横穴を掘るような感じで作業するので、あらかじめ産卵床の角を低めに、中央を高めに盛り上げるようにしておくと幾分スムースに作業に入るようです。このようにしておくと産卵床の角でカメが立ち上がりにくくなる効果もあります。

前足で少し掘ると反転して後足で掘り始めます。最初はお尻の後ろの土を横に蹴り出すように掘り始めます。ウミガメ風。やがて後足を縦に差し込むようにして掘り進み、ある程度お尻が穴の中に入った状態からさらに後足をねじ込むようにしてお腹の下の方を壺のように掘ります。穴の中で足をグルグル回して削るように、そして回す足が土に触れなくなるくらいまで念入りに掘ります。掘っている間は周りで人が動いてもほとんど見えていないような感じです。

穴は「<」の字のような形状に掘ります。まず最初に穴の中に斜め45度程度で体がすっぽり入ってしまうような形になり、その状態でお腹側を掘るため結果的に「<」の字になります。「穴の中に立って片足で横穴を掘る」形を想像した方が良いかも知れません。

やがて一方の後足を穴の壁面に突っ張って、一方の後足を写真のように穴の中に突っ込んだ状態(卵の保護?)でいきみ始めます。眼がやや虚ろな半眼になり、ときにはまばたきを繰り返しながら首を引っ込めて行きます。やがて尾の根元が膨らんで卵が出てきます。ひとつ産み終わると突っ込んだ後足を使って優しく卵を前(お腹の下)の方に転がします(次の卵がぶつからないようにしている?)。それぞれの卵を産み落とす間隔は1~10分程度。最後の卵を産み落としてもすぐに埋めるのではなく同様に転がし作業を念入りに行います。ここまでの過程で前足は全く動かしません。

全て産み終えて転がし終えると埋め始めます。まず穴の後ろ側を削るようにして埋め始め、ある程度土を集めると両足の間で土をこねるような仕草をします(土をお腹側の穴に送り込む動作と思われる)。十分に土を送り込むと少し前に進み、スネの部分で踏み固めるような可愛い「ふみふみ」動作をします。これマジ可愛いっすよ~。徐々に前に移動しながら土を集めたり踏んだりを繰り返し(時には写真のように足を大きく振って遠くからも土を集めます)、最終的には産卵箱の中を何度も周回して真平らにしてしまいます。産卵の痕跡を消すためでしょうか。

穴掘り1時間強+産卵30分前後+穴埋め1時間強=全部で3時間ほど(卵4個の場合)の作業でした。深さは産卵箱の底に近いところまで掘っていました。卵の大きさは概ね長径40mm弱×短径25mm前後の楕円形ですが、35×30ほどの丸っこい卵もありました。

なお産卵と潮の関係についてはウチでは概ね中潮~小潮の日に産んでいます。が、観察記録に拠れば深夜徘徊が始まっているのはその前の大潮の日であり、自由に産める環境であればその大潮の深夜に産んでいるのかも知れません(が、そう仮定するとクラッチ間隔10日で産むことも可能ということになる・・・)。

※2期目の産卵では1st・2ndクラッチと長潮の日の産卵が続きました。大潮であることよりも潮の周期(約2週)の方が重要なのかもしれません。また1stクラッチ産卵の10日後には体重が100g近く増加しており、抱卵に要する期間は最短10日以内と意外に短いようです。

卵の大きさ/質量に関する記録(随時更新)
産卵日時 長径×短径 / 重量 仔g 備考
12月2日3時
12月18日5時
12月31日22時
1月14日12時
概ね40弱×25mm
一部35×30mmなど
推定18g
13
~15
形状に違いはあるが大きさはあまり変わらず。孵化個体も14g前後でほぼ一定
8月29日19時 42×30mm / 22g 17 前期10卵よりふた周りほど大きな卵
9月13日16時 40×30mm / 21g 前クラッチよりひと周り小さい
38×30mm / 20g 15
40×29mm / 19g
38×29mm / 19g
10月4日14時 45×31mm / 25g 19 少し長めの大きな卵
44×30mm / 23g
10月11日4時 37×27mm / 16g 過去最小
36×26mm / 14g
10月21日16時 42×31mm / 23g 18
41×31mm / 22g 17
11月8日4時 41×30mm / 21g 16
41×30mm / 21g 16

孵卵器

孵卵器は容積が大きいほど温湿度の変動は緩やかになるわけですが、ウチは室温が高めで冬でも20℃を切ることがほとんど無いので、あまり気にせずに300×450×150の発泡スチロールの箱を使いました。これにガラス蓋を乗せた簡単なものです。蓋を開けずに内部の様子が伺えて管理が楽(^^; なお通常はガラス蓋の上に目隠しをしてあります。

多方面の情報を総合的に分析(笑)し、温度30~31℃、湿度70%付近を目標に構築しました。

保温はプレートヒーターを使用する例が多いようですが、手元にあったスーパー1はヒーターの表面温度が38℃になるとOFFになるため、孵卵器内が十分に暖まる前にサーモが作動してしまい役に立ちませんでした(ピタリ適温とか周辺空気温でサーモが作動するタイプならOKだと思います。てゆ~か買えよ俺)。というわけでウチではナイトライト40Wを使用(ライトを使う際は光が卵に直接当たらないように注意)。この場合ソケットなど器具自体がかなり高温になるため、サーモでOFFになっても器具が冷めるまでに孵卵器内の温度が上がり続けることが懸念されましたが、設定温度に対して+2℃弱程度の上昇で収まってくれました。サーモON時に温度が上がり出すのはプレートヒーターより早いので冷え過ぎることは無く、概ね29℃~32℃の上下動で運用出来ました。

※ 思ったより温度の上下動が大きい感じでしたが、加温能力の弱い器具ではサーモで通電されてから実際に気温が上がり始めるまでの間は孵卵器内の温度が下がり続けますし、加温能力の強い器具ではサーモでOFFになってから器具が冷めるまでは孵卵器内の温度が上がり続けますので、どちらにしてもある程度のオーバーシュートは容認せざるを得ないと思います。

※ 保温に遠赤外線ライト類を使う場合、くれぐれも卵や温度センサーに直接光を当ててはいけません。遠赤外線を直接当てるのは直射日光を当てるのと同じで、遠赤外線は「照射を受けた物体そのものを発熱させる」ためその物体は周辺気温よりも先に高温になります(晴れの日のアスファルトが素手で触れないほど熱くなるのと同じ。まず遠赤外線の照射を受けた物体が発熱しその輻射熱で周辺気温が上がる)。このため卵に直接光を当てれば卵は周辺気温よりも強く熱せられ、また温度センサーに直接光を当てれば気温が十分に上がる前にサーモが作動してしまい孵卵器内が十分暖まらなくなります。ライトを使う場合は遠赤外線で孵卵器の内部を温め、その輻射熱によって孵卵機内の空気を暖め、その温度をセンサーで検出出来るように設置しましょう。

加湿用の水入れには陶器を使用しました(蒸発が良いと聞いていたので)。なるべく水量を多くした方が水温が安定し湿度も安定すると思います。容器の数を増減させてガラス蓋を締め切った状態で80%を超えるように調節し、その状態から蓋の隙間を調節することで70%前後になるように運用しました。

※ 孵卵器に45cm水槽などを使う際は、容積が大きく湿度が上がりにくいので、水槽自体に水を張ってその水を温める湿式孵卵にした方が良いでしょう。

卵は乾燥したままのバーミキュライトを2~3cmほど敷いたタッパーに収めました。上下がひっくり返らないように少しだけめり込ませてあります(カメの卵は上下が定着した後は絶対に反転させてはいけません。必ず印を付けましょう)。タッパーの位置が保温器具より高くなるように設置。さらに底面が冷えないようにステンレスの台で浮かせてあります。

※ 卵は上下が定着した後は絶対に反転させてはなりませんが、産んだ直後であれば反転させても問題ありません。卵を掘り返したら反転させられる時間帯を利用してティッシュなどで土汚れを落としておくと白濁の様子を観察したり検卵する際に苦が無くなります。

※ 未発生の卵は中身が漏れ出したり発酵して破裂することがありますので、それらが他の卵に影響するのを防ぐためにもバーミキュライトなど吸水性の高いものを使った方が良いでしょう。キッチンペーパーなどでは十分ではないと思います。

※ バーミキュライトは保湿力に優れているので、卵をセットする前にある程度湿気を吸わせておかないと孵卵器内の湿度がなかなか上がらないので注意。

※ 金属製の容器は熱を吸ってしまうため、吸熱と放熱を繰り返すことで孵卵器内の温度が安定しなくなるのみならず、容器の縁からの距離で温度差が出来てしまいます。プラスチック製の容器を使いましょう。

※ 孵化した幼体が発生途中の他の卵を動かしてしまう危険を感じたので、後に段ボールで仕切って孵化の最も近い卵を隔離しました。本来は別の容器に分けるべきかもしれませんが、たくさん産んだのでスペースが無かった(^^;
なお暖まった空気はケース内の側面から天井に対流するものですので、温度計やサーモのセンサーを孵卵器の壁面に設置するのは芳しくありません。なるべく中央の空間の卵の近くに設置するのが好ましいと思います。

孵卵の経過

産んだ直後の卵は微妙に半透明で薄暗く見えます(白いポリタンクのような感じ。光加減によっては肌色っぽく見えます)。受精卵は産後2~3日頃から上面中央部より白濁が始まり、白濁が始まってから1週ほどで下のように真っ白になります。

なお当初は検卵は一切行わない方針でした。検卵して発生が認められなかったとしてもそれで諦めるわけがありませんし、検卵することで孵化の確率が上がるわけでもありません。むしろ事故が起きる可能性が増えるわけで良いことなどひとつも無いと思ったからです。が、自分が行っている孵卵が正しいのか確信が持てないため、結局何度も孵卵器をいじりまわす悪循環に陥ってしまったので、一度目の産卵から3週が過ぎた頃に意を決して検卵を行いました。検卵は部屋を暗くして反対側から光を当てることで行います。

※ 上記写真は内部を見易くするために色調補正をかけてあります。本来は発生中の卵に光を当てると内部は鮮やかな橙色に見えます。白濁前の卵は薄い黄色です。

産卵から22日が経過した卵(写真上4個)は全て血管のようなものと影のようなものが見受けられ、産卵から6日が経過した卵(写真下3個)は上面中央より白濁が進行中でした(白濁していない部分は透明度が高く明るく見える)。これでようやく自分の行っている孵卵にある程度の自信が持て、それ以後は孵卵器について試行錯誤することは無くなりました。

上記の検卵によって影響に出ていないかが心配だったので、その後産卵から31日が経過した時点で卵に触れないように斜めから照らして見たところ、血管のようなものが多数枝分かれしており、内部の影は卵の両面に渡るほど大きくなっており同じように動きが見られ、さらに上部中央に直径10~15mmほどの空気溜まりのような円形の影が確認されました(一般的に成長に伴って殻の柔らかい卵は内側に凹み、固い卵は空気溜まりが出来るらしい。リクガメは固い卵)。2回の検卵で同じように動きが見られたのでとりあえず一安心(って実際のところは全く安心なんかしてないんだけど(笑)。上記で白濁が進行中だった方は取り出して普通に検卵したところ皺のような影が見えました(産後15日)。

とまあ行き当たりばったりの検卵だったわけですが、上記の検卵結果などを総合すると
[産後2日] 白濁開始
[産後6日] 上から見て3/4ほどが白濁(上記写真)
[産後15日] 白濁が終わり皺のような影を確認
[産後22日] 数本の血管と動く胚の発生を確認(上記写真・動画)
[産後31日] 多数の血管、卵の両面から見える大きな胚、上部に空気層を確認
というような感じになります。これは単一の卵で確認した結果ではありませんが、複数クラッチの卵の状態を総合した結果なのでかえって信頼性があるかも知れません。

その後も何度か触らずに斜めから照らしてみましたが、40日頃からは下の方は真っ黒というか光をあまり透過せず、上部の空気層が広がっていること以外は良く見えませんでした。空気層に近い部分がやや赤く、そのあたりにかろうじて血管が見える程度です。

50日頃から卵殻の表面に部分的に半透明っぽく見える部分が表れました(白濁前の卵殻に似ています)。胚は卵殻のカルシウムを吸収すると言われているので、それによって卵殻が薄くなるのかもしれません。

ほとんどの卵で孵化の一週間前頃から空気層が眼に見えて広がる現象が見られました。その頃になると空気層に近い部分も暗くなって血管なども確認出来なくなりました。また孵化の1~2日前頃の検卵では空気層が変形したり位置が偏るのを確認(長径方向に偏ったり細長くなることが多かった。長径方向は空間に余裕があるためその方向に押し出されたものと考えられます)。さらに孵化の半日前~直前の検卵では空気層自体がぼやけて見え難くなるのを確認しました。おそらく胚が空気層内までせり上がってくることで光を透過し難くなったものと推察されます。以上のように孵化を始める直前には胚の急激な膨張が起こるようです。

※なお現在は産後2日目に見られる白濁開始が卵の有精無精を見分ける最も重要な指標となっています。2007年までの53卵において、産後3日が経過した時点で白濁が見られれば全て孵化に至っており、そうでないものはその後の発生の進行も全く見られず当然ながら孵化には至っていません。この点については100%確実な結果が出ています。なので産んでからがっかりするのも早いです(^^;

見辛いですが59日目の空気層。ライトの先端近くの文字が書いてあるところが卵の上面中央で、その周辺の白い部分が空気層です。産卵からひと月を過ぎた卵はこのように卵を動かさずに検卵しました。初産2ndクラッチ以降は孵化直前の変化を把握するために日に2~3度の検卵を行いましたが特に悪影響は無かったようです。ただ検卵することがプラスに働くわけではないので必要で無ければしない方が良いでしょう(^^;

検卵に使ったマグライト。光量の多い単3電池2本仕様の物(ミニマグライトAA)を使い、ボール紙とアルミ箔で作った逆向きの反射板を先端に付けて光を絞ってあります。先端を絞って光漏れを防いでおけば右写真のように卵を動かさずに斜め上から照らすだけで内部の変化が十分に観察出来ます。

孵卵日数は周辺気温に左右されます。サーモによる温度維持はあくまで「加温する」「冷ます」の繰り返しなので温度は常に上下動しており、その上下動は周辺気温の影響で温まりやすくなったり冷めやすくなったりしますので、それによって平均温度に差が出るものと考えられます。

設定温度と孵卵時期による孵卵日時(随時更新)
設定温度 産卵日 クラッチ平均孵卵日数 親個体
29℃ 8/29 58 すーさん
9/13 58 すーさん
10/4 63 ぼっちゃん
10/21 63 ぼっちゃん
11/8 62 ぼっちゃん
12/31 65 すーさん
28℃
1/1 71 すーさん
1/27 69 すーさん
2/15 72 すーさん
3/7 70 すーさん
3/22 69 すーさん
4/8 67 すーさん
4/23 67 すーさん
5/25 64 すーさん

※ 設定が安定していなかった時期のすーさん初産1st・2ndクラッチは除外しています。

残暑が厳しい時期の孵卵では58日と極端に早い孵化です。この時期は周辺気温が設定温度を上回ることが多く、サーモ+加温による温度維持では冷やすことが出来ないので周辺気温の影響が大きいものと考えられます。それ以外の時期では概ね周辺気温に比例する結果が出ているようです。

孵化

69日目、前日の検卵で最も広い空気層(長径方向で30mm程度)が存在していた卵の空気層が突然消失しました。光を当てても真っ黒で何も見えません。もしかしたら孵化寸前なのか・・・と思ったら、なんと卵の横が割れていました。産卵から68日18時間後の出来事でした。実際の孵化開始が何時頃なのかはわかりませんが、前日深夜の時点では孵化は始まっていませんでした。

孵化の進行は実にスローなものでした。観察開始からおよそ1時間後に「パキッ」とはっきり聴こえる音と共に大きな亀裂が入りましたが、その後はヒビの入った部分(割れた卵殻が卵膜で繋がっている部分)が押し出されたり引っ込んだりというじれったい動きが数時間に渡って続きました。

/

発見直後の状態。穴の右上に縁甲板がわずかに見える。 発見よりおよそ11時間経過。卵殻の欠片がわずかに落ちている。

微妙な動きと共にわずかに卵殻が剥がれ落ちる・・・という状況が続き、大きく動いたのは約13時間後。最初に割れた部分の下に小指の先ほどの穴が開き鼻先の出し入れが見えるようになりました。

/

ひび割れていた部分が突き破られようやく鼻先が見えた。 穴の周囲をかじる口の動きが見受けられる。

この穴が広がって顔が出るまでにはさらに5時間を要しました。

/

穴の周囲をかじりながら突き崩す。ようやく閉じている眼が見えるようになった。 さらに周囲をかじって割り進める。

顔が出てからはやや動きが活発になり、右前足、左前足、さらに回転しながら大きく縦に殻を破って体の左側面~左後足が立て続けに露出しました。

/

大きく顔を突き出した拍子に右前足部分の卵殻が割れる。 右前足部分の卵殻が剥がれ落ち、左前足部分の卵殻が割れる。

/

卵膜を突き破って右前足が露出。すでに立派なツメが生えている。 右前足で上を向きながら90度回転してしまった。

/

強く踏ん張った拍子に卵殻が縦に大きく裂ける。 回転しながら左前足を出す。この時点で初めて眼が開いた。

/

回転しながら左後足を露出。折れ曲がった腹甲が開閉するのが見える。 さらに回転し、頭を突っ込んだまま眠りに入った。徐々に腹甲が開いて行く。

この後2時間ほど眠ったような状態が続いてやきもきさせられましたが、孵化開始を発見してからおよそ26時間で殻から脱出しました。

/

眠った状態が続いて・・・ ようやく眼を覚ましたが、しきりに卵膜をかじっている。

/

奥に向かって回転。 さらに回転し最初の穴とは逆方向に抜け出す。

/

まだ卵殻をかじっている。 ようやく脱出。すぐに卵殻をぶら下げたまま物凄い勢いで徘徊を始めた。

孵化に丸1日を要した所為かヨークサックは全て吸収されていました。孵化直後に周囲のものに齧り付いていたので、チンゲンサイを与えてみたところ数口だけ食べました。その後はすぐに潜る行動を始めました。ちなみに2頭目以降でも孵化直後に葉を食べ、その後物凄い勢いで潜り始めましたので、この行動は習性なのかもしれません。なので孵化直後のタイミングでエサを与えておくと多少安心出来るかも・・・。

4頭目の孵化は発見から49時間を要しました。途中40時間以上小康状態が続きかなりやきもきさせられました。

概ねこのようにお腹が折れ曲がった状態で卵の短径方向から出てくるようです(あくまで甲羅の平たいホルスの場合。他のリクガメでは長径方向を向いて出る例もあるようです)。割れてから脱出までが早いほど曲がりが深い状態で出てきます。幾分斜めに折れていることもあり、その場合は孵化直後は少しねじれたような歪んだ形状で出てきますが、2~3日で綺麗に伸びて差は無くなります。

なおヨークサックの有無は「ヨークサックが卵殻から離脱する時期」に依存するようです。通常ヨークサックのある腹甲側は下を向いているわけですが、その部分には粘液状の物質が溜まっており、それによってヨークサックが卵殻に張り付くような状態になっています。上記例の孵化の過程ではその部分が脱出の5時間前に離脱しており、そのような場合はそれから脱出までの時間にヨークサックが吸収されるらしく、脱出の直前にヨークサックが卵殻から離脱するような孵化の過程を経た場合は必ず大きなヨークサックが残っています。そしてそれらは概ね4~6時間ほどで吸収されました。当方での最長孵化時間は59時間でしたが、その個体は腹甲側が粘液から外れた拍子に一気に卵から飛び出したので、孵化に時間がかかったにもかかわらず最も大きなヨークサックが残っていました。つまりヨークサックは腹甲側が卵殻(というか溜まっている粘液)から離脱するまではあまり吸収されず、離脱して4~6時間ほどで吸収されるものと推察されます。ただこれらは全て孵化に24時間以上かかった個体の例であり、もっと早く卵から脱出した場合のヨークサックの状態はまた異なるものと思われます。

幼体の管理

幼体を手に持つ際は成ガメと同じように扱わないよう注意しましょう。甲羅が柔らかいので力を入れにくい上にかなりの力で暴れますので、両脇を軽くつまむと暴れた拍子に落としかねません。四本の指で包むように持ってあげましょう。

ケージにはプラケースを使用し、木製ケージの中に間借りする形で設置しました。温度はやや高目の27℃に設定し昼夜の温度差は付けず、転倒による事故を防ぐためにホットスポットも設置しませんでした。湿度は土の一部を濡らすことで十分だと思います。

ホルスの潜る習性を満足させるために床材には土を使用しました。どんなものが良いのか迷ったので産卵床の土を幾分乾かして使いました(^^; 孵化直後の幼体は周囲の物を食べようとする習性があるようなので、あまり粒子の大きくないものを使うのが良いと思います。

周囲の物を食べるのに飽きると素早く身を隠そうとします。そして孵化後2~3日は警戒心からか土に潜っていることが多くエサも食べない仔が多いです。概ね3~4日目からエサを食べ始め親ガメと同じような生活になります。

なおエサを食べない期間はむしろ水を飲む姿が多く見られました。なので孵化後2週間程度は温浴はほぼ毎日行いました。これは半ば強制的に水分を与えるためのもので、基本的に僕は成ガメの温浴は行わない主義です。

餌は親と同じもので良いですが、育ち盛りの仔ガメには食餌量が与える影響が大きいと思うので、多少栄養過多気味になっても配合飼料を与えるのが無難だと思います(当方では3日に1回程度与えています)。配合飼料はプリティペッツが食べやすくて良いでしょう。レップカルは水を含んでも粒がしっかりしていて扱いやすいのですが、しっかりしている所為で転がりやすく仔ガメには食べにくいです。プリティペッツは粒が大きいですが非常に柔らかいので自然にくちばしが通りますし、大きい分だけ転がりにくく仔ガメの口から逃げるようなことがありません。