ゼータ関数と解析接続を解説

 解析接続とは,たとえば実軸上の三角関数cosxを正則関数

  cosz=1-1/6z^2+1/120z^4-・・・

に解析接続し,虚軸に制限すると

  cos(iy)=1+1/6y^2+1/120y^4+・・・=cosh(y)

という双曲関数が得られます.

 同様に,実軸上の単項式x^nを単項式z^nに解析接続し,それを単位円周上に制限すると

  (cosθ+isinθ)^n=cos(nθ)+isin(nθ)

という関数(ド・モアブルの公式)を得ることができます.オイラーの公式

  exp(iθ)=cosθ+isinθ

を用いれば

  exp(inθ)=cos(nθ)+isin(nθ)

 このように実解析関数の変数を複素数に拡張することにより未知の世界が開けてきます.ところが,関数論(複素解析)を深くも浅くも学んだ経験のない小生にとってなかなか理解できない概念の1つがリーマン・ゼータ関数の解析接続です.

 ゼータ関数は無限級数

ζ(x)=Σ1/n^x=1/1^x+1/2^x+1/3^x+1/4^x+・・・

として定義される関数です.すなわち,ゼータ関数は調和級数を一般化したものと考えることができます.x>1ならばゼータ関数は収束します.しかし変数を実数に限定している限り,x=1で∞となってしまいそれより左側に進むことができなくなります.

 ゼータ関数を複素数へ拡張する必要があるのです.sinxはxが実数のときは-1から1までの値をとりますが,複素数のときは違います.ゼータ関数も同様です.ところが,オイラーが使っていた神秘的な等式

  1+2+3+4+5+・・・=-1/12

  1^2+2^2+3^2+4^2+5^2+・・・=0

  1^3+2^3+3^3+4^3+5^3+・・・=1/120

  1^4+2^4+3^4+4^4+5^4+・・・=0

では正数の無限級数の総和ですから無限大のはずですが負や零になっていて,一見して目がくらんでしまいます.

  ζ(s)=Σn^(-s)

はRe(s)<1では意味をなさなくなるというわけですが,一体,リーマン・ゼータ関数の解析接続はどうなっているのでしょうか?

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【1】オイラーの計算

 1749年にオイラーは発散級数を大胆に計算することによりこれらの結果をみいだしましたが,これらの式は現代数論では当然のことのように使われていて,リーマン・ゼータ関数の解析接続後にそれぞれ-1,-2,-3,-4での値として正当化されます.

 無限大になるところをうまく引き去って有限の値をだすことを物理学の用語で「繰り込み」といいますが,オイラーの計算の仕方を紹介すると

  φ(s)=1-1/2^s+1/3^s-1/4^s+・・・=(1-2^(1-s))ζ(s)

より

  φ(0)=-ζ(0),φ(-1)=-3ζ(-1),φ(-2)=-7ζ(-2),φ(-3)=-15ζ(-3)

また,

  f(x)=1+x+x^2+x^3+・・・=1/(1-x)

  g(x)=xdf(x)/dx=x+2x^2+3x^3+4x^4+・・・=x/(1-x)^2

  h(x)=xdg(x)/dx=x+2^2x^2+3^2x^3+4^2x^4+・・・=x(1+x)/(1-x)^2

より

  f(-1)=φ(0)=1/2,g(-1)=-φ(-1)=-1/4,h(-1)=-φ(-2)=0

これから

ζ(0)=-1/2,ζ(-1)=-1/12,ζ(-2)=0,・・・

となる.

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【2】Re(s)>1のとき

 ゼータ関数を複素数へ拡張する場合,素朴に

  ζ(s)=Σn^(-s)=Σexp(-slogn)

s=u+vi,u=Re(s),v=Im(s)として,オイラーの公式を用いれば

  ζ(s)=Σexp(-ulogn){cos(-vlogn)+isin(-vlogn)}

    =Σn^(-u)cos(vlogn)-iΣn^(-u)sin(vlogn)

  ζ(s)=f(u,v)+ig(u,v)

のように解析的に求められればよいのですが,これでは実部Reζ(s)も虚部ζ(s)も解析的には定められそうにありません.どうやら近似値を求める必要がありそうです.

 ζ(s)=Σn^(-s)はRe(s)>1ならば解析接続可能な領域ですからゼータ関数の値は存在し,sが複素数でも絶対収束します.解析的な値を求めることはできなくても近似値ならMathematicaなどで求めることができ,具体的な答えを返してくれます.また,そうであるからには人間の手計算でも(何日かかるかはわからないが)できるはずです.

 実変数の場合の例をあげますが

  ζ(2)=Σ1/n^2=1+1/4+1/9+1/16+・・・

を使って求めようとすると小数点以下2位まで精確に求めるだけで200項以上必要になります.これでは計算効率が悪いので収束を加速させるための工夫が必要です.

 たとえば,

  ζ(2)=1+Σ1/n^2(n+1) (n=1~)

  ζ(2)=7/4+Σ1/n^2(n^2-1) (n=2~)

  ζ(2)=2-Σ1/n^2(4n^2-1) (n=1~)

  ζ(2)=59/36+Σ1/n^2(n^2-1)(4n^2-1) (n=2~)

  ζ(2)=235/144+4Σ1/(n-2)(n-1)n^2(n+1)(n+2) (n=3~)

などはζ(2)=Σ1/n^2よりも速くπ^2/6に収束します.

  ζ(3)=5/4-Σ1/(n-1)n^3(n+1) (n=2~)

  ζ(3)=1+Σ1/n^3(4n^4+1) (n=1~)

  ζ(3)=9/8+Σ1/n^3(9n^8+18n^6+21n^4+4) (n=1~)

  ζ(3)=115/96+4Σ1/(n-2)(n-1)n^3(n+1)(n+2) (n=3~)

などもその例で,杉岡幹生氏との掛け合い漫才「奇数ゼータと杉岡の公式」シリーズにも類似の公式が掲げられています.

 また,2項係数を使った

  Σ1/(2n,n)={2π√3+9}/27

  Σ1/n(2n,n)=π√3/9

  Σ2^n/n(2n,n)=π/2

  ζ(2)=3Σ1/n^2(2n,n)

  ζ(2)=12Σ(2-√3)^n/n^2(2n,n)

  ζ(3)=5/2Σ(-1)^(n-1)/n^3(2n,n)

  ζ(4)=36/17Σ1/n^4(2n,n)

なども有効でしょう.→コラム「ゼータとポリログ関数」参照

 なお,

  ζ(3)=5/2Σ(-1)^(n+1)/n^3(2n,n) (n=1~)

より,

  ζ(5)=R*Σ(-1)^(n-1)/n^5(2n,n)

と予想されますが,

  ζ(5)=2Σ(-1)^(n+1)/n^5(2n,n)-5/2Σ(Σ1/n^2)(-1)^(n+1)/n^3(2(-1)^(m+1)/m^3(2m,m) (n,m=1~)

    =5/2*Σ(1/1^2+1/2^2+・・・+1/(n-1)^2-4/5n^2)(-1)^(n-1)/n^3(2n,n)

となって,予想に反して,Rはたとえ有理数であったにしても,簡単なものにはならないということです.

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【3】0<Re(s)<1のとき(オイラー・マクローリンの和公式)

 たとえば,漸近公式

  ζn(x)=Σ1/k^x=logn+γ+1/2n-1/12n^2+120n^4-1/252n^6+・・・ (k=1~n)

  γ=0.57722・・・(オイラーの定数)

では,n→∞のときζn(x)→ζ(x)に収束します.複素変数の場合であっても,Re(s)>1ならば解析接続可能な領域ですからゼータ関数の値は存在し絶対収束します.

 解析的な値を求めることはできなくても近似値なら求めることができます.私はMathematicaがどのようにして近似値を求めているのかその手法を知りませんが,Mathematicaの近似値計算手法はサポート会社に訊ねても答えてくれるかどうかはわかりません.

 それではRe(s)<1のときはどうなのでしょうか? 1732年にオイラーは今日オイラー・マクローリンの和公式として知られている公式を証明なしに発表しました.それ以降,この公式を使って既知の級数をきちんと評価できるようになりました.

 ゼータ関数に対するオイラー・マクローリンの和公式の応用例

  ζ(s)=1/(s-1)+1/2-s∫(1,∞)(x-[x]-1/2)/x^(s+1)dx

において,この式の右辺の積分はRe(s)>0で絶対収束します.すなわち,この式はRe(s)>0へのζ(s)の解析接続を与えていることになります.また,s=1が極であることも見て取れます.

 このことから0<Re(s)<1のときのζ(s)の値もオイラー・マクローリンの和公式を使って意味をもたせることができ,たとえば,半整数点での値

  ζ(1/2)=-1.46035

を求めることができます.普通の意味では無限大になっているはずですが(奇妙なことに)発散しません.

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【4】Re(s)<0のとき(関数等式)

 オイラー・マクローリンの和公式は,ベルヌーイ数B2kを使えばさらに左側に進むことができます.

  ζ(s)=1/(s-1)+1/2+ΣB2ks(s+1)・・・(s+2k-2)/(2k)!-s(s+1)・・・(s+2m)∫(1,∞)(-1)^(m-1)Σ2sin2πnx/(2πn)^(2m+1)/x^(s+2m+1)dx

右辺の積分はRe(s)>-2mであれば存在し,s>-2m,s≠1なるすべてのsについて定義することができます.

 しかし,このような区分的な解析接続ではなく,もっとうまい手があります.結論を先にいうと,sを複素変数とするとき,関数等式

  ζ(s)=π^(s-1/2)Γ((1-s)/2)/Γ(s/2)ζ(1-s)

を用いればζ(s)をs=1(極)を除くすべての複素数に対して意味をもたせることができ,sを-1とすると値が-1/12,2とすると値が0になるというわけです.Γはガンマ関数です.

 また,

ξ(s)=1/2s(s-1)π^(-s/2)Γ(s/2)ζ(s)

あるいは

ξ(s)=π^(-s/2)Γ(s/2)ζ(s)

で定義すると

ξ(s)=ξ(1-s)

のように完全に左右対称な美しい形に書くことができます.ガンマ関数はゼータ関数の仲間と思ってほしい所以です.

 関数等式は

(1)sを複素変数として複素全平面への解析接続を与えることができること

(2)ζ(s)がRe(s)=1/2を対称軸とする美しい対称性をもっていること

を示しています.

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【5】ガンマ関数からの補足

 関数等式はきわめて簡潔に書かれているので,そういうふうに「解析接続」されているといってしまえばそれまでですが,しかし,このように定義されても私はどうしてもつかえてしまうのです.おおかたの人にとってもまったくわからないあるいはもう一つピンとこないほうが普通なのではないでしょうか.

 私のように物わかりの悪い者は世の中にそうたくさんはいないと思いますが,私の素朴な疑問も何らかの役に立つかもしれないので,冗長ですが以下の話におつきあい下さい.

  Γ(x)=∫(0,∞)t^(x-1)exp(-t)dt x>0

無限積分Γ(x)をxの関数とみてガンマ関数といいます.

  Γ(1)=∫(0,∞)exp(-t)dt=1

  Γ(1/2)=∫(0,∞)t^(-1/2)exp(-t)dt

ここで,t=u^2とおくと∫(0,∞)exp(-u^2/2)du=√π/2(ガウス積分)より

  Γ(1/2)=√π

が得られます.

 オイラーの第2積分とも呼ばれるガンマ関数Γ(x)には,Γ(x+1)=xΓ(x)の関係があり,次のような漸化式が成り立ちます.

  Γ(x+1)=xΓ(x)=x(x-1)Γ(x-1)=・・・・

したがって,xが正の整数nのときにはΓ(n+1)=n!が成り立ち,ガンマ関数は階乗の一般形となっていることがわかります.

 また,半整数のときには,Γ(n+1/2)=(2n)!√π/{2^(2n)n!}です.なお,ガンマ関数Γ(x)はx>0について微分可能で,x=1.4616321449・・・で最小となります.

 ガンマ関数の定義をx<0の領域にも拡張することができます.すなわち

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